詩集『叫び』
葵夏葉
ハエ
ハエがいる
俺の頭の上を
ブンブンと飛んでいる
アパートでも
会社でも
居酒屋でも
スナックでも
きっとコイツが死んだら
俺も死ぬんだろうな
そう思っていた
ある日
俺は結婚した
ハエは消えた
ほら、もう俺は死んだはず
パン
パンの中身は、
パンの外側を食べないと
辿り着けない。
大きいパンなら、
尚更パンが好きでないと、
辿り着けない。
理想
逃げても逃げても、
時馬は人々を追い掛け、
百代は多大にして積み重なる。
酒を片手に紡いだ調べは、
憂いの情を隠し切れず、
知らぬ間に床に就く。
理想をもう片手に握り締めながら。
休息
悲しみの瀬に浮かび、
月夜の晩に身を投じて、
回想するのは過去の事柄。
木々が囁くように言う。
「冷たくなるぞ」
それでも、私は
「まだこうしていたい」と
目をつぶる。
行動
行動するとき、
人は活発になる。
じっとしていると、
物事も上手く進まなくなる。
それが安全だと思っていても、
やっぱり、
どこかツラい。
周りが次々と変わって行くから、
動いているから、
自分も
動かなくてはいけない気持ちになる。
そう思わせてくれる
友達や身近な人がいる。
それは決して悪いことではない。
甘さ
人からほめられることをしたい。
人から認められることをしたい。
でも、
人からほめられたくない、
認めて欲しくない。
自分の心を縛るのは、
いつだって自分。
自分は常に、
曖昧な自分を求め続ける。
理解して欲しいのに、
理解して欲しくない。
なんて、贅沢だろう。
甘さかな。
感覚
一点の黒と見るか蟻と見るか、
遠くにいる動物を
馬と見るか鹿と見るか。
人の感覚は誤認し易い。
しかも、
見え方に差がある。
一度感覚を疑ってみよう。
けれど、
自分の抱いた想い自体に
間違いはないはずだ。
勘違いはあったとしても。
悩み
悩みは
一歩踏み止まる
〝弱さ〟になるが、
一歩踏み出せる
〝強さ〟にもなる。
迷いは決して、
あたふたすることではない。
見方を変えたり、
視野を広げたりしているのだ。
だから、
大変だし、
忙しい。
何もしていないのとは違う。
それが分かれば、
迷っている自分が許せる。
望み
あの日、君と見た幾つもの惑星。
一度だって忘れたことはない。
アレが大きな木星だと。
アレが小さな冥王星だと。
僕も一緒に行きたかった。
けれど、行けなかった。
君の『望み』を、『幸い』を、
理解しようと、
大きな銀河の地図を作った。
忘れられない想いは、
木星のように大きく。
君と離れてしまったことは、
惑星と呼ばれなくなった、
冥王星のように寂しく。
それでも僕は、
どこかにいる君を想って、
今を生きる。
銀河の彼方に君を意識しながら。
叫び
僕はおかしくならない。
叫ばない。
もう、いいんだ。
何を言う?
孤独か?
絶望か?
そりゃいい
叫んでみろ。何が変わると言うのだ。
嫌になるだけだろ。
そんな中で生きていける訳がない。
考え方を変えてみろ。見方を変えてみろ。
まだ大丈夫なんだろ、実は。
嘘なんて吐くなよ。
そんなに泣いて、泣き疲れるのを待っているのか?
ツラい事をいい事に、ツラいのが全てなんだと勘違いしていないか?
悔しいか? ツラいか? 痛いか? 苦しいか?
は! 何か変わったか。
何も変わらん。
本当にツラいヤツは、もうそこにはいない。
いようなんて思わないから。
頭が狂ってるとしか思われないぞ。
お前の文章は足りない。
まだ、足りない。
軸はいい。だが、それだと騒いだだけで終わりだ。
次の日には、二日酔いでぶっ倒れている、アホで終わる。
そうじゃない、そうじゃない。
酔うな、酔うな。
そんな悪酔いするな。アホだ。みっともない。
何が芸術だ。何が悲しいだ。
もっと書け。書いてみせろ。
優しいのなら、とことん悲しみも知らなくちゃいけない。
悲しいなら、とことん優しさを知らなくちゃいけない。
分かってるはずだ。
知ってるはすだ。
それで、書け。書いてみせろ。
それが、本当の叫びじゃないのか。