詩集『心を抱くように』
葵夏葉
昔を訪ねて
バラードを聴きながら
昼間の太陽が作る
少年の影法師
自分の姿を探しながら
夕日に望んだ
少年の面影
長く伸びる
挫折
どうか
小さな可能性を潰さないで。
どうか
大きな夢に打ちひしがれないで。
アナタが望む明日は、
きっとアナタの中にある。
だから、
生きて。
圧力としてではなく、
願いとして、
祈りとして、
届いて欲しい。
アナタの柔らかい心に。
夢は空に
何か言われて
アナタが心を開くのは、
大切な人の言葉だから。
何か言われて
アナタが内にこもるのは、
大切な人の言葉だから。
大切な人も同じはず。
アナタの言葉は、
アナタだけの言葉ではありません。
誰かの為の言葉となって、
この空の一部になります。
誰かが誰かを思いやれる
素敵な空に。
許し合い
傷付いて、
そうして、
また相手を傷付けて、
あきない繰り返し。
『痛い』のは、
よく知っているはずなのに、
『悲しく』なるのは、
よく知っているはずなのに、
また繰り返す。
他人は他人。
自分は自分。
そうすると、
寂しくなる。
思いやりを忘れないで。
嫌な自分も、
好きな自分も、
他人も、
みんな包んであげて。
そこ
常に必要とされる自分が
『そこ』にあるんじゃない。
確かに『そこ』が欠けたら
誰かが穴を埋める。
そう、誰でもいい。
でもね、
アナタが『そこ』でやっている
一つ一つはアナタ自身なの。
知識や技術は
アナタがいるから輝くの。
『そこ』は『底』じゃない。
『そこ』を
『アナタの必要とされる場所』へ。
だから、諦めないで。
細かい何かの集まり
僕が、
ただの肉となり、
細かい原子の集まりになったとしても、
この世は僕に優しいだろうか。
僕が、
ただの物となり、
細かい記憶の集まりになったとしても、
この世は僕に厳しいだろうか。
僕の欠片は、
僕を知らずに、
どこへいくのだろう。
募る想い。
謎めく疑問。
僕の前にある
細かい何かの集まりは
きっとアナタかもしれない。
友情と愛
彼は毎日暗い顔して通りを歩くのさ
周りは何も知らないのに勝手な言い草
僕は知っている
彼女に逃げられたのさ
だから
彼を責めるなよ
周りは何も知らないのに勝手な言い草
僕は知っている
彼は来る日も来る日も
頭を下げたまま謝っていたのさ
だから
僕は逃げた
彼女と一緒に
ごめんと言いつつ
静かな死
水中で叫びたい。
外に漏れない、その中で。
なびく布のように、
ひらひらと
水面を浮遊していた僕は、
いつしか重くなった
その身を海中に委ね、
空と決別した。
口からあふれた水泡が
水面へと上がっていくのを、
薄目で眺めていた。
空気に触れると
消えてしまう、
僕の想い。
そのうち、
僕は底へと沈んだ。
花のように
彼は願った。
上を向いていたい、と。
上から下へと
振り注ぐ雨に打たれながらも、
彼は空を見上げ続けた。
花びらを濡らしながらも咲く花を
胸に宿して、
冷たい雨で瞳が濡れても
閉じないように、
ひたすらに曇り空を見上げていた。
故郷の夜
怯えて 眠れなかった 一七の夜
服を着て 家族を起こさず 開けた玄関
暑さの余韻 歩いた故郷 狭き道
ちらつく外灯 かすかに避けて
踏みつけたのは 見知らぬ亡骸
パトカー見れば 林に隠れて
臆病な自分 見つけた
眠れなかった
明るい未来に怯えて
眠れなかった
友を見捨てるようで
眠れなかった
全てに反発しても
希望が僕には
眩しかった
丘の上 大きな岩に 寝そべると
青春の悩み 心を染める
夜空も 僕には 眩しかった
二人の距離
雲に隠れて輪郭だけが見える月。
肌寒い空に映える星。
そのどれもが離れて見えると
君が言う。
近くに見えて遠くにいる。
星同士もそうなのかなぁ、と
君は僕を見る。
進みゆく物語の中で
見ているようで、見ていない。
そこにいるのに、そこにいない。
何かすると、変に思われる。
心の通ったあいさつなんて
最後にしたのは、いつだろう。
アナタと過ごした時間は
大きな時間の流れの中に取り残され、
ワタシの記憶を淡く染める。
物語のように、しおりを挟んで、
また始められたら、
どんなに嬉しいかなんて、
今更どこにいるのか分からないアナタには、
伝えられない。
アナタの遺書
大切な記憶を包み込んで、
またどこかでアナタの声を聴く。
離れていく手、夕暮れの丘。
引き寄せられる足、静かな海。
アナタからの手紙を見る度に、
悲しさは溶けて、
見つめた向こうが淡く光り
また朝が来る。
抱きしめて記憶が壊れないように、
抱きしめて心が壊れないように、
優しく包み込む。
人形師の悲劇
時間が、
世界が、
揺れて揺れて、
時計が、
コンパスが、
狂って狂って、
身体を回し、
頭を回し、
軸を戻そうと動き回る、
でも、
もう戻らない。
人形は主人に問う。
「なんで壊れたの……ワタシもアナタも」
迷いびと
透き通る夜空にこだまする、
若き者たちの酔詩。
それは悲哀の酒か、
憂愁の酒か。
巨岩に座りて、
街望む。
疎らに散らばる灯火は、
星芒の影を落とすが如く
誠に心細く、
不意にこぼれた酒は
涙と瓜二つ。
岩肌を黒く染めたのち、
辺りは薄雲に隠れ、
街は既に眠りの中。
遠ざかるは、
人々の足音。
彼ら、迷いびと。
和解
吹雪の中の山奥で
ひっそり寒さと和解する
馳せるは芯まで鈍るその酔眠よ
願うは消える体温の行く末を
今か今かと待ち続け
濃くなる紫の過去に血の名残り
些細な事柄
視界を埋めて
最期の涙
生きた証の結晶へ
雲の向こう
生きているということを 感じたかった
アナタが隣にいることを 知りたかった
それでも遠ざかる アナタの存在に
この手が届かなくて
アナタの温もり 感じたはずなのに
繋いだその手 冷めていく
抱いたその身 夜の抜け殻
アナタの温もり 知ったはずなのに
どうしてかな 薄れていく
どうしてかな 涙の意味 考えて
アナタの空に 手を伸ばしたまま
涙のかたまり 邪魔をして
ぼやける視界 雲の向こう
戻れないのだと 感じていた
人は死ぬのだと 知っていた
でも 他人ごとのよう
後悔と犠牲で知る尊さを 涙の意味を
私がどうして知っているの
さよならの背中 空に映して
振り返るアナタを 期待していた
アナタが好きな 私が好きだった
アナタといる時間は もっと好きだった
だから
アナタがいない 私は嫌いだった
踏み出せない時間は もっと嫌いだった
戻れない時間 アナタを重ねて 口づける
離れない時間 嬉しく悲しく 虚しくて
雲の向こう
アナタがいると思いながら
飛び立つ