【雑記ノート】(おまけコーナーを作成中!)

2016年4月19日火曜日

『この頃』

『この頃』              葵夏葉











  水晶


曇り空からひとつ

青い水晶をひとつ

この手のひらの中

氷も残らぬほどの

焼ける水晶にして

過ぎ去る人の側に

いつまでも置こう












  リセット

こんなにも空が青いから

どんなに悪いことがあっても

僕の心はリセットされる

こんなにも空が青いから

どんなに忘れたくないことがあっても

僕の心はリセットされる

嫌なことも嬉しいことも

ぜんぶ青に染まる













ぐっすりと

大切な人が目の前で寝ている。

僕は幸せそうに寝ている人を起こせない。

だから、目の前の人はいつまでも寝ている。

朝、夕、晩と地球が回っても、

その人は目を開けない。

この人は寝すぎだ。

きっと、よほど幸せに違いない。

このまま起こさないでおこう。

また逢える朝まで、

ぐっすりと。











なんの役にも立たず

夜のクジラが大きな口を開け、

ぷくっと浮かんだ詩を飲み込んだ。

そんな日には現実なんてなんの役にも立たない。

空と海はこれからやってくるはじまりの朝に身を任せ、

大地に吹いている風に耳を傾ける。

明日は晴れか曇りか、芥川龍之介か。

そんなことはなんの役にも立たず、

ただ愛しい。













優しい気持ち

いま、とても、優しい気持ち。

柔らかい餅のように。

水道水の蛇口から、

小さな小さな水滴が垂れるように。

ゆっくりとページをめくるように。

夢が次第に朝になるように。

大切な人が欠伸をするように。

寝癖の髪がそよ風でなびくように。

すれ違う友だちに挨拶をして、

今日が始まるように。












夕焼け

絆なんて結ばなければよかったと、

ときどき僕は思う。

その度に、相手は遠くの丘で泣いていた。

なんで僕は悲しいのか、寂しいのか。

星の王子さまとキツネは絆を結んだ。

どうしてだろう。

わからなくなって、立ち止まり、振り向いた。

相手もいっしょに振り向いた。

夕焼けは僕らを包んだ。













温かい雨

詩と詩の間に雨が降る。

けれど、それは温かい雨。

夕焼けの中を飛んできて、

夜を冷ます温かい雨。

消えることのない夢の中から生まれて、

現実の中に消えていく温かい雨。

冷えた肌にあの熱を思い出す。

紅潮した肌が空をとらえて離さない。

やがて、

温かい雨が詩と詩の間に、また降り始める。











いまはもう

いまはもう涙はかれた。

それでもまだ心は燃えている。

この空も変わらずに。

いまはもう声はかれた。

それでもまだ体は動いている。

この道はあるがまま。

いまはもう努力はかれた。

それでもまだ言葉は紡がれる。

この星の下で。

いまはもう木はかれた。

それでもまだ人は生きている。

この地球といっしょに。










視線

視線。

僕の視線はどこまで届くのだろう。

例えば、天井。

例えば、本の文字。

見え隠れするのは視線のせいか。

それとも目の前の君のせいか。

視線と視線がぶつかり合う瞬間、

どこかで交通事故が起きた、

戦争が起きた、

甘く苦い恋に落ちた。

誰のせい。

視線のせい。

よし行こう。

視線の先へ。








飛行機

遠くから飛行機の音がする。

遠ざかっていく飛行機。

まるで友だちがさようならを告げるように去っていく。

僕はそのとき朝の中にいた。

光り始める世界の中で、

ウソみたいに寝たふりをしている。

飛行機の音が消えた。

目を覚まして涙を拭く。

そして、いつもの朝の中に音を頼りに出かけた。












ため息

ため息、それは一日の終わり、

ため息、それは焦げ茶のコーヒー、

ため息、それは桃色の絶望、

ため息、それは愛してと呟いた夕空の色。

ため息とため息の間を、

ひそやかな風が通る。

ため息に、こんにちは、そして、さようなら。















頭痛

頭痛。

誰かが巨大なロケットを打ち上げたり、

誰かが大声を叫んだりしたわけではない。

ただの頭痛だ。

上手く弾けないからと、

バイオリンを床に叩きつけたり、

母親が子供にダメだと叱ったりしたわけでもない。

頭痛は頭痛。

でも、涙を流しながら泣いているあの子の文字は、

痛いと震えた。












終わりのない詩

終わりのない詩。

終わりのない詩は、

アナタと一緒に、散歩をする。

終わりのない詩は、

アナタと一緒に、泣く。

終わりのない詩は、

アナタと一緒に、怒る。

終わりのない詩は、

アナタと一緒に、年を取る。

終わりのない詩は、

アナタと一緒に、目を閉じる。

終わりのない詩は、

アナタと一緒に、誰かの夢になる。