詩集『歩み』
葵夏葉
いつまでも
いつまでも続けて
いつまでも生きて
いつか忘れられて
でも
それでも
いつまでも続けて
いつまでも生きて
忘れないように
続けていこう
生きていこう
忘れられても
いつまでも続けて
いつまでも生きて
いまがあるから
忘れずに
続けて
生きていける
形容詞
「好き」という言葉を使わずに、
僕はどれだけ君に多くの気持ちを
訊くことができるのだろう。
「好き」という言葉を使わずに、
僕はどれだけ君に多くの気持ちを
伝えることができるのだろう。
「好き」という言葉を探すように、
君の言葉を探すから。
君を表す形容詞。
今日もひとつ、
君を見つけた。
アホウドリ
アホウドリは、アホだ。
学ばない。
アホウドリは、アホだ。
簡単に罠に引っかかってしまう。
アホウドリは、アホだ。
数が少なくなっても、変わらない。
アホウドリは、アホだ。
このままでは絶滅してしまう。
アホウドリは、アホだ。
そんな名前をつけられても、平気で生きている。
アホウドリは、アホだ。
どうして、それで生きていけるのだろう。
アホウドリは、アホだ。
人間を恐れない。
命令
犬は鳴きなさいという。
音は聴きなさいという。
花は咲きなさいという。
光は見なさいという。
鳥は飛びなさいという。
空は落ちなさいという。
火は燃えなさいという。
泡は浮かびなさいという。
海は沈みなさいという。
本は読みなさいという。
筆は書きなさいという。
僕は泣きなさいという。
オオムラサキチョウ
君は念願の蝶になった。
でも、僕はただの人間だ。
名前など、とうに忘れた。
格好も、
食べる物も
君と僕とでは違う。
オオムラサキチョウ。
僕が名付けた名だ。
君は蝶に、
他の何者でもない蝶になったのだ。
君は飛べるし、
甘い蜜が大好きだ。
でも、
君は笑うことができない。
君は涙を流さない。
話せない。
骨の行方
ある日の暮れ方に
彼の遺体を焼きました
静かな弔辞でした
明けの明星
宵の明星と言いますけれど
煙突から立ち昇る煙が
次第に黒から灰色に変わり
いつしか真っ白に輝き始めたのです
あたりは暗くなり
その光は天の川へ
なぜだか
私にはそれが不思議で堪りませんでした
路傍の石
路傍の石は憧れていたのだ
きっと
炉端の石が羨ましいと思っていたのだ
きっと
「ろぼう」と呼ばれない代わりに
「ろばた」と呼ばれることに
きっと
たくさんうんざりしていたのだ
きっと
踏まれて蹴られる石よりも
きっと
温かい囲炉裏の側に生まれたかったのだ
きっと
燃える蝶
燃え続ける羽を生やした蝶を
空の彼方に認めた
それは夜の訪れを知らせる表れであり
またその影である
その下を何台かの車が横切った
マフラーから吹き出す
黒々とした排気ガスが
蝶の羽に触れると
やがて
あたりは
真っ暗になった
ただひとつ
僕の瞳に焼きついた
赤い繭だけを残して
夜の翼
翼は影を連れていく。
影は地を駆け、
景色を流れ、
空に散る。
けれども、
それは消えない。
ときにそれは鳥の翼、
ときにそれは蝶の羽に連れられて、
山や谷や川や森にその姿を映し出す。
けれども、
鳥や花や蝶もまた夜の影。
今日も夜が大きな翼を広げて、
夕日を目指して飛び立った。
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